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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1873号 判決

控訴人

柴田三郎

控訴人

三浦日吉

被控訴人

有限会社小岩自動車鈑金

右代表者

平野トキヱ

右訴訟代理人

伊沢英造

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所は、被控訴人の本訴請求をいずれも正当として認容すべきであるとするものであり、その事実認定及びこれに伴う判断は、次に改めるほか、原判決がその理由中に説示するところ(原判決六枚目―記録一六丁―裏五行目から原判決八枚目―記録一八丁―裏九行目まで)と同一であるから、その記載を引用する(但し、原判決引用部分末尾の「認容し、」を「認容する。」と改める。)。

1  原判決理由第一項前段(原判決六枚目―記録一六丁―裏五行目から原判決八枚目―記録一八丁―表八行目まで)を次のように改める。

「被控訴人が原判決添付第一物件目録(一)ないし(六)記載の土地の所有者であり、右土地がもと原判決添付第二物件目録(一)ないし(九)記載の土地(本件土地)であつたこと、西武信用組合が本件土地に有限会社千越に対する三〇〇〇万円の債権の根抵当権を有するとして右債権を申立債権とする不動産競売を昭和五二年四月千葉地方裁判所松戸支部に申し立て有限会社千越を債務者、被控訴人を所有者とする同庁昭和五二年(ケ)第四四号事件として競売手続(本件競売手続)が開始されたこと、被控訴人が昭和五四年二月二二日本件土地に対する本件競売手続を停止する旨の仮処分決定正本を千葉地方裁判所松戸支部に提出して本件競売手続の停止を求めたこと、控訴人らが競落人として昭和五四年六月六日頃千葉地方裁判所松戸支部に競落代金全額を支払い、同裁判所同支部が千葉地方法務局流山出張所に本件土地所有権移転登記を嘱託したため、同地方法務局同出張所同年同月六日受付第九〇八三号で本件土地につき各二分の一の共有持分登記が各控訴人のためになされたこと及び控訴人らがその後本件土地を被控訴人主張のように合筆のうえ分筆して合併による所有権登記を得たため現在原判決添付第一物件目録(一)ないし(六)記載の土地となつていることは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に〈証拠〉を総合すると次の事実が認められる。

(一)  本件競売手続において昭和五三年一二月二六日千葉地方裁判所松戸支部は本件土地に対し控訴人両名を競落人とする競落許可決定を言い渡した。

(二)  被控訴人は(一)の決定に対し東京高等裁判所に即時抗告をしたが、抗告理由書を提出しないまま、昭和五四年一月二四日右抗告を棄却する旨の決定を受け、(一)の決定が確定した。

(三)  その後、被控訴人は、同年二月二二日浦和地方裁判所川越支部に四〇〇万円の保証を立てて本件土地につき本件競売手続を停止する旨の仮処分決定を得、同日前叙のように右競売手続停止仮処分決定正本を千葉地方裁判所松戸支部に提出して本件競売手続の停止を求めた。

(四)  千葉地方裁判所松戸支部は、同年五月一五日本件競売の競落代金支払期日を同年六月一一日午後二時と指定し、同年五月二五日右期日は同年六月四日午後二時と変更された。

他に、以上の認定を動かすだけの証拠はない。かように、本件は競落許可決定確定後競落代金納入前に担保物件共有者から競売裁判所に競売手続停止仮処分決定正本が提出され、その後競落代金支払期日に競落人から競落代金全額が支払われた事案である。被控訴人は右正本提出当時競売手続は完結していなかつたから競売裁判所が競売手続を停止すべきであり、仮処分決定に違反して競落代金が完納されたことにより担保不動産の所有権移転は生じないと主張するのに対し控訴人らはこれを争い、右仮処分申請前競落許可決定は既に確定していたと反論する。

競売法に基づく競売手続のうち共有物分割のためにする競売のような形式的競売は換価をもつて完了するが、本件競売のように担保権の実行として行なわれる競売は請求権の満足によつて終結する。さすれば、後者の場合担保物件所有者から競売裁判所にその競売停止を命ずる仮処分決定正本が提出されたときには、競売手続が請求権の満足(競落代金の完納)により完結していない限り、裁判所は競売手続を停止すべきであり、本件において競落許可決定が確定していたが、代金支払期日は未指定であり、代金納入前に前叙仮処分決定正本が提出されたのであるから、裁判所は競売手続を停止すべきであつて支払期日の指定、変更(新支払期日の指定)をなすべきでなく、競落代金を受領すべきではないと解するのが相当であり、右仮処分決定に違反して指定された代金支払期日に競落代金が全額納入されても競落不動産の所有権は未だ競落人である控訴人らに移転したとはいえない。なお、当裁判所は競落代金が完納されれば競落不動産の所有権は競落人に移転し、たとえ競落代金が競売手続停止仮処分に違反して納入されても所有権移転を無効とすべきではないとの見解にも左袒することができない。代金全額支払前であれば債務者が被担保債権を弁済して競売開始決定に対し異議を申し立て、競売手続の取り消しを求め得るのと比較し著しく権衡を失するからである。さすれば、控訴人らは、競落代金を納入したからといつて本件土地につき所有権を取得することができないといわなければならない。

進んで当審における控訴人らの主張につき判断する。競売法による競売手続につき停止の要件が具備したにもかかわらず、競売裁判所がこれを無視して競売手続を停止しないときに、利害関係人が執行方法に関する異議を申し立てることができることは控訴人主張のとおりであり、右異議が排斥されれば即時抗告を以て争い得ることは明らかである。然るに被控訴人がこの途を選ばなかつたことはその明らかに争わないところであるからこれを自白したとみなす。しかし、前叙のように競売手続停止仮処分に違反してなされた競落代金の納入によつて競落人に競落不動産の所有権が移転する由のない理は、担保不動産所有者が執行方法に関する異議により競売裁判所が前叙仮処分決定に違反して競売手続を停止しないことを現実に競売手続内で争つたと否とによりなんら異なるものではないから、控訴人らの主張を採用することはできない。」

2  原判決八枚目―記録一八丁―表一一行目に「当裁判所」とあるのを「競売裁判所」と改める。

二よつて、本件各控訴は、いずれも理由がないから、民訴法三八四条に従い棄却することとし、同法九五条、八九条、九三条一項本文に従い主文のとおり判決する。

(園部秀信 村岡二郎 清水次郎)

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